診療ガイドライン

Clinical practice Guidelines

→ 目的と経過 → 症状と診断に関する事項 → 治療と管理に関する事項 → HPPモニタリングガイダンス

目的と経過

ALP酵素補充薬アスホターゼアルファ(商品名ストレンジック®)が使用可能となり、低ホスファターゼ症 (hypophosphatasia; HPP)を取り巻く診療環境は大きく変化しました。そこで、AMED難治性疾患実用化研究事業「診療ガイドライン策定を目指した骨系統疾患の診療ネットワークの構築」研究班 (研究開発代表者:大薗恵一) においては、日本小児内分泌学会の協力を得て、HPP患者の診療にあたる医師や歯科医師に対してHPPの標準的医療を示し、その臨床決断を支援するための診療ガイドラインの作成を行いました。この診療ガイドラインは担当医の診療方針を縛るものではなく、診療の助けになることを目的としています。ガイドラインに示されるのは標準的な診療であるため、実際の診療については、個々の患者さんの状態に応じて、担当医が判断していただくことになります。また、この診療ガイドラインはEBM普及推進事業(Minds)による「Minds診療ガイドライン作成の手引き2014」を参考に作成されており、利用者としては医師や歯科医師の他に患者さんとその家族を想定しています。すなわち、患者さんと医師・歯科医師が意思決定をされる際に双方にこのガイドラインを活用していただき、協働して最終判断をしていただくことをめざしています。

HPP診療ガイドラインの作成にあたっては、HPP診療ガイドライン作成委員会 (委員長:道上敏美) を組織し、HPPの症状と診断、治療と管理に関する21項目のクリニカルクエスチョン(CQ)を設定し、それぞれのCQについて系統的文献検索によりエビデンスの収集を行いました。収集したエビデンスの強さをA〜Dの4段階に評価し、強い推奨を1、弱い推奨を2として、各CQに対する推奨文と解説の作成を行いました。さらに、作成したガイドライン原案について、日本小児内分泌学会会員やHPP患者会からパブリックコメントを聴取し、反映させました。最終版は2019年1月11日より日本小児内分泌学会ウェブサイト上で公開しました。2019年11月には、Minds診療ガイドラインライブラリにも収載されています。

解説を含めたガイドライン全文については、以下のサイトをご参照ください。

→ 日本小児内分泌学会
→ Minds 診療ガイドラインライブラリ

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症状と診断に関する事項

    【推奨】HPPは発症年齢や重症度に幅があり、通常、6病型に分類される。年齢により異なる症状が存在し、周産期重症型や乳児型の約半数は治療が行われなければ生命予後が不良であるのに対し、他の病型の生命予後は良好である。(推奨グレード1、エビデンスレベルB)

    【推奨】HPPは臨床症状、放射線学的所見および生化学検査所見から診断される。血清アルカリホスファターゼ (ALP) 活性値の低下は重要な所見であるが、年齢や性別に応じた基準値と比較する必要がある。確定診断のためにはALPL遺伝子検査を行うことが推奨される。(推奨グレード1、エビデンスレベルB)

    【推奨】HPP患者においては、骨折、骨変形、呼吸不全、けいれん、頭蓋骨縫合早期癒合、高カルシウム血症/高カルシウム尿症、異所性石灰化、乳歯早期脱落などの歯科症状、筋力低下、運動発達遅延など、様々な合併症を認める。(推奨グレード1、エビデンスレベルB)

    【推奨】HPP患者に対する骨単純X線検査においては、年齢や重症度により、さまざまな程度の骨石灰化障害、くる病様骨変化、骨幹端舌様低石灰化領域、骨変形、骨折、偽骨折などの所見を認める。(推奨グレード1、エビデンスレベルB)

    【推奨】HPP患者においては、血清ALP活性値が年齢や性別に応じた基準値に比較して低下を示す。尿中PEA排泄や血中PLP値が増加する。また、高カルシウム血症や高カルシウム尿症を示す場合がある。(推奨グレード1、エビデンスレベルB)

    【推奨】胎児超音波検査による早期診断はHPPの早期治療・予後改善につながると考えられ、推奨される。(推奨グレード1、エビデンスレベルC)

    【推奨】遺伝子検査はHPPの確定診断や遺伝カウンセリングのために推奨される。遺伝子検査による重症度判定の正確性には限界がある。(推奨グレード1、エビデンスレベルB)

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治療と管理に関する事項

    【推奨】HPPに罹患していることが確実で、かつ、予後不良であることが予測される場合には、ALP酵素補充療法の適応となる。また、生命予後良好な病型であっても、骨症状や筋力低下などHPPに基づく症状が存在する場合、酵素補充療法による改善が期待でき、治療の相対的な適応となりえる。(推奨グレード1、エビデンスレベルC)

    【推奨】HPPに対するALP酵素補充療法の効果判定は、臨床症状や骨X線所見の改善に基づいて行われる。(推奨グレード1、エビデンスレベルC)

    【推奨】予後不良であることが予測される周産期重症型、乳児型に対しては、ALP酵素補充療法を行うことにより生命予後改善が充分に期待でき、推奨される。(推奨グレード1、エビデンスレベルB)

    【推奨】周産期良性型HPPに対するALP酵素補充療法の有効性については、現時点ではエビデンスがない。今後、症例の蓄積と解析が必要である。(推奨グレードなし、エビデンスレベルC)

    【推奨】現時点では、ALP酵素補充療法がHPPの頭蓋骨縫合早期癒合に及ぼす影響は不明である。(推奨グレードなし、エビデンスレベルD)

    【推奨】ALP酵素補充療法は、HPPにおける運動機能の改善のために推奨される。(推奨グレード1、エビデンスレベルC)

    【推奨】周産期重症型や乳児型のHPPの場合、生命予後を改善するためには、可及的早期に酵素補充療法を開始することが推奨される。呼吸機能が改善するまでには時間がかかり、その間、集中治療を要する場合もあるため、可及的早期に酵素補充を開始することが推奨される。(推奨グレード1、エビデンスレベルB)

    【推奨】これまでALP酵素補充薬アスホターゼアルファの投与量と治療効果に関する検討は報告がなく、エビデンスに乏しい。(推奨グレード2、エビデンスレベルC)

    【推奨】アスホターゼアルファの投与により、注射部位反応が発現することがあるため、同一部位への反復注射を避け、注射部位を毎回変更することが推奨される。また、血清カルシウム値やリン値が変動することがあるため、モニタリングを行うことが推奨される。(推奨グレード1、エビデンスレベルC)

    【推奨】HPPに対するALP酵素補充療法中には、有効性と安全性をモニターする必要がある。年齢に応じて、生化学検査、骨X線検査、呼吸機能評価、成長の評価、痛みや運動機能の評価、生活の質の評価、歯科的評価、異所性石灰化の有無の評価などを定期的に行うことが提案される。(推奨グレード2、エビデンスレベルC)

    【推奨】HPPにおいてビスホスホネートが非定型大腿骨骨折を増加させるとのエビデンスは乏しいが、骨症状の改善は期待できないため、投与を避けることが推奨される。(推奨グレード1、エビデンスレベルC)

    【推奨】HPPにおけるけいれんは通常、ビタミンB6依存性けいれんであり、ピリドキシン (pyridoxine) 投与による治療が行われるが、不応例も存在する。(推奨グレード1、エビデンスレベルC)

    【推奨】酵素補充療法はHPPにおける高カルシウム血症の根本的な治療となる。一時的な対症療法としては、低カルシウムミルクの使用などのカルシウム摂取制限、輸液、ループ利尿薬、カルシトニンの投与などが行われるが、これらは骨症状を悪化させる可能性があるため、酵素補充療法を併用することが推奨される。(推奨グレード1、エビデンスレベルC)

    【推奨】HPPにおいては歯科的なフォローや治療が推奨される。(推奨グレード1、エビデンスレベルC)

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HPPモニタリングガイダンス

診療ガイドラインのCQ17「ALP酵素補充療法中のモニター項目には何が推奨されるか」に対する推奨の作成にあたっては、Kishnaniらによる論文 (Kishnani PS, et al. Mol Genet Metab, 2017: 122: 4-17)を参考にしました。この論文で提案されているモニタリングガイダンスは、酵素補充治療中の患者を対象としていますが、酵素補充を行っていない患者の管理においても参考になります。しかしながら、必ずしも日本の現状に合わない記載も見られます。そこで、HPPの診療経験を有する日本のエキスパートが参集し、このモニタリングガイダンスを日本で活用するための改変・追加・削除を行って、その結果をまとめました。PDFを以下からご参照いただけます。

→ HPPモニタリングガイダンス日本版はこちら