酵素補充療法
2015年にアルカリホスファターゼ(ALP)酵素補充療法が可能になるまで、低ホスファターゼ症 (Hypophosphatasia; HPP)に対する治療は対症的治療にとどまっていました。すなわち、周産期重症型や乳児型症例に対する呼吸管理、低カルシウム乳などを用いた高カルシウム血症/尿症の是正、けいれんに対するビタミンB6投与、骨変形や脚長差などに対する整形外科的治療、頭蓋骨縫合早期癒合症に対する外科的治療、歯科的管理などが行われてきました。これらの治療はALP酵素補充療法が可能になった現在においてもやはり重要ですが、対症的治療のみでは重症型の生命予後は極めて不良であり、また、軽症型についても治療効果は充分とは言えません。以前、乳児型HPPに対する骨髄移植や成人型HPPに対するPTH投与が試みられたこともありましたが、効果は限定的でした。
そうした中で、骨への親和性を高めたALP酵素補充薬 アスホターゼアルファが開発され、重症型HPPに対する有効性が報告されました (Whyte, et al. N Engl J Med, 2012)。アスホターゼアルファは組織非特異型ALPの触媒ドメインにヒト免疫グロブリンG1のFcドメインと10個のアスパラギン酸から構成されるドメインを融合させたリコンビナント蛋白質です。10個のアスパラギン酸から構成されるドメインはハイドロキシアパタイトへの親和性が高く、アスホターゼアルファは骨局所で高いALP酵素活性を維持することができます。我が国では、2015年、世界に先駆けて、日本でHPP治療薬としてのアスホターゼアルファの製造販売が承認され、ストレンジック®という商品名で市販が開始されました。
アスホターゼアルファ(ストレンジック®)は、1回 2 mg/kg週3回、または1回 1 mg/kg週6回を皮下注射により投与します。患者さんや家族による自己注射が可能です。注射部位反応(紅斑、発疹、変色、掻痒感、疼痛など)が発現することがあるため、同じ部位への反復注射を避け、注射部位を毎回変更することが勧められます。アスホターゼアルファ(ストレンジック®)を用いた酵素補充治療の導入により、それまで不良であった周産期重症型や乳児型の生命予後は大きく改善しました。HPPの小児患者を対象とした臨床試験では、アスホターゼアルファ(ストレンジック®)の投与は骨石灰化の改善に加えて、6分間歩行検査における歩行距離やCHAQ(小児健康評価質問票)を用いた機能障害度を改善したことが報告されています (Whyte, et al. JCI Insight, 2016)。
酵素補充治療が可能になったことにより、HPPを取り巻く診療環境は大きく変化しました。こうした状況から、2019年に、「低ホスファターゼ症診療ガイドライン」が策定され、日本小児内分泌学会ウェブサイトで公開されました。このガイドラインについては別項で概説していますので、そちらをご参照ください。
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歯科的管理
HPPにおいては歯のセメント質形成不全のために乳歯の動揺、早期脱落を来すため、小児歯科による管理が必要になります。口腔衛生指導と歯周治療により、動揺歯であっても、永久歯に交換される時期まで乳歯を可及的に温存します。乳歯早期脱落に対しては、審美性の回復、発音機能の獲得、残存乳歯への咬合圧の低下などを目的として小児義歯の装着が行われます。我が国では、HPPに対する小児義歯の使用は保険適用となっています。