組織非特異型アルカリホスファターゼとは
アルカリホスファターゼ (ALP)は、至適pHがアルカリ性で、リン酸エステルをリン酸とアルコールに分解する脱リン酸化酵素の総称です。N端に分泌シグナルを有し、glycerol phosphate inositol (GPI) アンカーを介して細胞形質膜に局在します。通常、2量体として働き、酵素活性を発揮するためには 金属 (亜鉛やマグネシウム) を必要とします。ヒトには、4つのALP遺伝子 (ALPL、ALPI、ALPP、ALPG) が存在します。ALPLがコードする組織非特異型ALP (Tissue non-specific ALP; TNSALP)は肝臓、腎臓、骨組織に高く発現し、組織特異的な糖鎖付加による翻訳後修飾を受けて肝臓型、腎臓型、骨型になります。一方、ALPIは小腸型、ALPPは胎盤型、ALPGは胚細胞型ALPの遺伝子です。低ホスファターゼ症 (Hypophosphatasia; HPP) においては、ALPL遺伝子の機能喪失によりTNSALP酵素の活性が低下し、基質であるピロリン酸やホスホエタノールアミン、ピリドキサール-5'-リン酸などが分解されずに体内に蓄積します。
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骨への影響
HPPの中心となる病態は骨石灰化の障害です。骨はI型コラーゲンなどの蛋白質から構成される骨基質にカルシウム・リンを中心とするミネラル(骨塩)が沈着することにより石灰化され、強度を獲得します。骨格において、TNSALPは石灰化阻害物質であるピロリン酸などを分解してリン酸を産生しています。リン酸とカルシウムの結合により形成されたハイドロキシアパタイトが骨基質中のコラーゲン線維に沈着、成長することで石灰化が進行します。HPPにおいては、TNSALPの活性が低下しているため、ピロリン酸が分解されずに蓄積して骨石灰化を障害します。局所のリン濃度の減少も骨石灰化の障害をもたらすと考えられています。骨石灰化障害に伴い、カルシウムが骨に蓄積せずに血中にとどまるため、しばしば高カルシウム血症/尿症を引き起こします。
骨におけるALPの役割とHPPにおける骨石灰化障害のメカニズム。
PPi; ピロリン酸。Pi; リン酸。Ca; カルシウム。HPPにおいてはTNSALPの活性低下により石灰化阻害物質であるピロリン酸のレベルが上昇し、ハイドロキシアパタイトの形成を阻害する。骨石灰化障害により、骨へのカルシウム蓄積が妨げられ、高カルシウム血症/尿症を引き起こす。
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中枢神経系への影響
周産期重症型や乳児型のHPPではしばしばビタミンB6依存性けいれんを示します。TNSALPは活性型のビタミンB6であるピリドキサール-5'-リン酸 (pyridoxal 5'-phosphate; PLP) を脱リン酸化してピリドキサール (pyridoxal; PL) を産生します。PLは血液脳関門を通過し、再びリン酸化されてPLPに戻ります。脳内のPLPは種々の神経伝達物質の産生に関与します。HPPにおいては、TNSALPの活性低下により、血中におけるPLPからPLヘの脱リン酸化が障害されます。その結果、血中PLP値は上昇して血中PL値は低下することになり、脳内のPLPが欠乏するため、けいれん発作が引き起こされると考えられています。
HPPにおけるビタミンB6依存性けいれんのメカニズム。
PLP; ピリドキサール-5'-リン酸。PL; ピリドキサール。HPPにおいてはTNSALPの活性低下によりPLPからPLへの脱リン酸化が阻害され、中枢神経系におけるPLPの欠乏を招く。
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歯への影響
HPPではしばしば乳歯早期脱落などの歯科症状を認めます。乳歯は通常、6歳ごろから抜け始め、永久歯に交換されます。正常なタイミングで抜けた歯は、歯根部が吸収され、短くなっています。一方、HPPにおける乳歯早期脱落では、4歳までに乳歯の動揺をきたして歯根が長く残ったまま抜けてしまいます。1歳で乳歯が抜ける場合もあります。HPPにおける乳歯脱落は下顎乳前歯部に好発します。また、乳歯ほど頻度は多くありませんが、永久歯が脱落する場合もあります。
歯は歯根膜(歯周靭帯)を介して顎骨に固定されています。歯根の外表を覆っているセメント質は、歯根膜を歯根に付着させる役割を有します。HPPにおいては、セメント質の形成不全があり、歯と顎骨との接着が障害されるため、歯が動揺を来して脱落すると考えられています。